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札幌高等裁判所 昭和32年(ネ)349号 判決

一審原告 日本コロンビア株式会社 外八名

一審被告 西村一男

主文

原判決を左のとおり変更する。

一審被告は、別紙目録記載のレコードを有線放送に使用する場合、各レコードにつき使用の都度、レコード及び楽曲の各題名、作曲者、編曲者、作詞者、演奏者、歌唱者及びレコード著作権者の各氏名を明瞭に放送せよ。

一審原告らのその余の請求を棄却する。

一審原告らの本件控訴を棄却する。

訴訟費用は第一、二審を通じて三分し、その二を一審原告ら、その一を一審被告の各負担とする。

事実

一審原告代理人は「原判決を次のとおり変更する。一審被告は別紙目録記載のレコードを有線放送に使用してはならない。一審被告の控訴を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも一審被告の負担とする。」との判決を求め、一審被告代理人は「一審原告らの控訴を棄却する。原判決中一審被告敗訴部分を取り消す。一審原告らの請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも一審原告らの負担とする。」との判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張及び証拠の提出、認否、援用は次のとおり附加する外、原判決事実摘示のとおりであるからこれを引用する。

一審被告(以下被告という。)代理人は「被告は北海道ミユージツク・サプライと称して営んでいた音楽の有線放送事業を昭和三十三年七月廃止し、同月設立された株式会社ミユージツクサプライ(昭和三十四年一月十日商号をお話機械株式会社と変更)が音楽放送事業を営んでいる。」と述べ、

一審原告(以下原告という。)代理人は「右株式会社が設立されたことは認めるが、その余の事実は否認する。同会社は被告が本訴請求を免れるために設立したもので、同会社が音楽放送事業を営んでいるというのは仮装であつて、以然として被告が音楽放送事業を営んでいる。仮りに被告主張のとおりであるとすれば、被告は右会社の代表取締役として、また、技術担当者として、同会社が事業遂行行為としてなしている著作権侵害行為に加功、加担しているから、その侵害行為の停止を求める。また、被告は将来有線放送事業を営み従前になしたと同様のレコード著作権侵害を敢えてなす可能性が充分あるので、その妨害予防をも合わせて主張する。なお、前記レコードの音楽は一、二を除きいまだ発行されていないから、右レコードは既に発行した著作物に当らない。」と述べ、

証拠として、原告代理人は甲第三、第四、第五号証を提出し、当審証人高橋芳雄、安藤穰、村山笹丸の各証言及び当審における検証の結果を援用し、乙第六ないし第九、第十一、第十二号証の各成立を認め、同第十号証の成立は知らないと述べ、被告代理人は乙第六ないし第十二号証を提出し、当審における検証の結果及び被告本人尋問の結果を援用し、甲第三、第四号証の成立は知らない、同第五号証の成立を認めると述べた。

理由

別紙目録記載の蓄音機レコード(本件レコード)について原告らがそれぞれレコード著作権を有し、同レコードが既に製造販売されていること、同レコードが音楽を録音していること、被告が昭和三十一年七月頃から札幌市北一条西三丁目三番地において北海道ミユージツク・サプライと称する音楽放送事業を営み、有線放送設備を設置し、喫茶店、酒場、食堂等五十余名を加入者として料金を徴収して右加入者に対し毎日午前九時半頃から翌日午前一時頃まで本件レコードの一部を使用して間断なく音楽を有線放送していたことは当事者間に争いがない。

被告は、右音楽放送事業を廃止したと主張するので案ずるに、成立に争いない乙第十一、第十二号証及び当審における被告本人尋問の結果によれば、被告が右音楽放送事業を昭和三十三年七月廃止し、同年八月十五日頃所轄税務署に廃業届を提出したこと、被告が親戚知人とともに音楽放送事業等を目的とする資本金百万円の株式会社北海道ミユージツク・サプライ(現在は、お話機械株式会社と改称)を設立し、同年七月二十五日その旨の登記を経由したこと、被告がその所有していた有線放送設備一切を同会社に売却し、同会社が音楽放送事業を営み、前記加入者と新たに放送の契約を締結したことが認められるから右主張は理由がある。

原告らは、右会社が音楽放送事業を営んでいるというのは仮装であると主張するが、これを認めるべき証拠がない。

従つて、被告が前記音楽放送事業を営んでいることを前提とする原告らの主張は爾余の判断を待たず理由がない。

原告らは、被告が右会社の代表取締役となつてその著作権侵害行為に加功加担しているから、その排除を求めると主張するので判断する。成立に争いない甲第一、第二号証、乙第五号証、弁論の全趣旨により成立の認められる乙第四号証、当審証人高橋芳雄、村山笹丸の各証言、当審における検証の結果、原審及び当審における被告本人尋問の結果に弁論の全趣旨を総合すれば、被告は前記有線放送を開始してから約三週間の間はアナウンサーを使用して、本件レコードのうちいわゆるクラシツク音楽については一曲ごとに作曲者名、題名、演奏者名、レコード会社名を、その他のレコードについては数曲まとめて題名、レコード会社名を放送したが、この方法は加入者から嫌われたので中止し、その後はレコードの番組表を加入者に配付していたこと、更に昭和三十二年二月十六日頃から録音テープにレコードの題名等を録音し、この再生音とレコードの再生音とミキサーで混合調節してこれを有線放送設備で放送する方法を採用し、いわゆるクラシツク音楽については当初と同様に一曲ごとに作曲者名、題名、演奏者名、レコード会社名を、その他の音楽については一時間ごとに数曲まとめてその題名及びレコード会社名等を放送していたこと、しかし録音テープの再生音が聴き取りにくく右題名、会社名等は殆んど判然しないこと、前記会社が設立された後は、同会社が被告の使用していた設備方法を用いて本件レコードの一部を使用して有線放送をなし、被告がその代表取締役となつて、放送に関する業務一切を決定し、かつ従業員とともに放送の実施にも当つていること、右放送においてはレコードの題名、レコード会社名等の放送も被告が放送事業を営んでいたときと同様の程度に行つていることが認められる。

ところで、原告らは、有線放送にレコードを使用することはレコード著作権に属すると主張するので案ずるに、蓄音機レコードの目的とするところはレコードに録音された音楽等を再生聴取させることにあるから、音楽等をレコードから再生して公衆に聴取させることは、蓄音機のみを使用すると、蓄音機の外に音響をそのまゝ伝達する電気通信の設備を使用するとを問わずレコードの複製に当るものというべきであつて、このことは著作権法第三十条第一項第八号の規定のあることによつても明らかである。そして、有線放送設備は音響をそのまゝ不特定又は多数の受信者に伝達する電気通信の設備であるから、レコードに録音された音楽等を再生してこれを有線放送することはレコード複製の一態様であつて、レコード著作権のなかに含まれると解すべきである。

被告は、レコードを有線放送に使用することは自由に許されていると主張するので考えるに、レコードに録音された音楽等を再生し有線放送することは、レコードから再生された音楽等を拡声機を用いて直接公衆に聴取させることと比較しその音響伝達の規模態様において大差なく、両者は極めて近似しており、有線放送にのみレコードの使用を禁止すべき特別の事由を見出し得ないから、同法第三十条第一項第八号にいう興行には有線放送を含むと解するのが相当である。従つて、レコードを有線放送に使用することは、同法条によつて偽作とみなされずレコード使用者の自由に委ねられているところである。なお、右法条にいう放送はラジオ放送を指称し有線放送を含まないことは同法改正の経緯に照し、かつ、規定の体裁にかんがみ明らかであつて、また、ラジオ放送が行政庁の認可を必要とするに反し有線放送が届出をもつて足りることからしても理解し得るところである。

原告らは、本件レコードに録音された音楽はいまだ発行されていないと主張するが、前記法条は特定の著作権の対象となつている著作物が既に発行されて公衆に頒布されている場合において、公益的見地からその著作物について一定の自由使用の範囲を定めたものであつて、本件レコード著作権の対象たる著作物は本件レコードであるから、本件レコードが既に発行されている限り同条による自由使用が許されるというべく、レコードに録音された音楽の楽譜が発行されているかどうかによつて差違が生ずるものではないのであつて、本件レコードが既に製造され一般に発売されていることは前段認定のとおりであるから、本件レコードは右法条にいう既に発行された著作物に当るといわなければならない。

原告らは、本件レコードを有線放送に使用する場合出所を明示しなかつたから本件レコードの使用禁止を求めると主張し、同法第三十条第二項の規定によれば、音を機器に写調したものを放送又は興行に使用する場合は出所を明示することを要するものと定められており、この義務は著作権者の人格権保護の趣旨に出でたもので、着作権の一内容であると解される。従つて、出所を明示するとは、興行又は放送に使用されている音を写調した物が特定の著作権者の著作物であることを聴取者に明らかならしめる措置方法を講ずることであつて、本件の如くレコードを有線放送に使用する場合においては、レコード及び楽曲の各題名、作曲者、編曲者、作詞者、演奏者、歌唱者及びレコード著作権者の各氏名を各レコードにつきこれを使用する都度明瞭に放送することである。

ところで、前段認定の事実によれば、被告は訴外会社の代表取締役として同会社の業務一切を指揮監督し、有線放送業務については従業員とともにその実施にも当つていること、同会社は有線放送に本件レコードを使用しているがいわゆるクラシツク音楽について一曲ごとに題名、作曲者名、演奏者名、レコード会社名を放送しているが、その他の音楽については一時間ごとに数曲まとめて題名、レコード会社名を放送しているに過ぎないこと、右レコードの題名、会社名等の放送は不完全で殆んど聴き取りにくいことが認められるから、同会社は前記法条に定める出所明示の義務を尽さず著作権を侵害しているといわなければならないのであり、かつ、前段認定の事実から、右会社が今後も本件レコードを右同様に使用して著作権を侵害する虞があると推測される。そして、被告は右会社の業務遂行のために右侵害行為を現に行つているのであつて、被告が今後も反覆して同様の侵害行為に出る可能性のあることは前記事実から容易に察知し得るところである。そして、被告のなしている右侵害行為は有線放送にレコードを使用する都度反覆して行われるところであるが、前段認定の事実によれば出所の明示をする意思が全くないとも認められないから、右侵害行為を防止するためには、レコードを使用する都度出所を明示すべきことを命ずれば充分であつて、本件レコード全部の使用を禁止する必要はないと認められる。なお、原告らは被告の現になしている侵害行為の排除を求めるというが、各レコードの放送が終了した後には出所を明示させる義務を履行させ得る余地はないので、かゝる作為を求めることはできない。

被告は、出所を明示しないという侵害行為が右会社に存在するとしても、個人たる被告にはその責任がないかの如く主張するが、会社の代表者が会社の業務遂行行為として現に侵害行為をなしているときは、その行為は一面会社の行為と認められるとともに一面代表者個人の行為と認められるから、原告らは著作権に基きその侵害行為の排除を求め得るのである。

従つて、原告らの請求は出所の明示を求める範囲において理由があるからこれを認容し、その余は失当であるからこれを棄却すべく、これと判断を異にする原判決を変更し、原告らの控訴は理由がないから棄却する。

よつて、民事訴訟法第九十六条、第九十二条、第九十三条に従い主文のとおり判決する。

(裁判官 石谷三郎 渡辺一雄 岡成人)

目録(一)

日本コロンビア株式会社

コロンビアM・G・Mレコード番号順総目録

一九五七年度版三百五十二帖

目録(二)

日本ビクター株式会社

ビクターレコード、ビクター番号順総目録

一九五七年度版二百二十四帖

目録(三)

東京芝浦電気株式会社

エンジエルレコード番号順目録

一九五七年度版百三十帖

キヤピトルレコード番号順目録

一九五七年度版六十八帖

目録(四)

日本グラモフオン株式会社

一九五七年度版番号別目録百四十一帖

目録(五)

日本ウエストミンスター株式会社

ウエストミンスター・レコード総目録

一九五七年度版六十七帖

目録(六)

日蓄工業株式会社

エピツクレコード一九五七年三月新譜八帖

目録(七)

テイチク株式会社

テイチク・デツカ番号順総目録

昭和三十二年版 百九十二帖

目録(八)

新世界レコード株式会社

一九五七年三月新譜

新世界レコード、カタログ 十帖

目録(九)

キングレコード株式会社

番号順総目録

昭和三十二年版 百八十二帖

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